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雲をつかむ話(3章-1)

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3.漠然とした霞のような不安

 

クラウドコンピューティングの混沌は、コンセプトや定義だけの話ではない。むしろ、クラウドを使うことへの漠然とした不安が、霞となって、余計に雲の全体像を見えにくくしているのではないかと思う。

私のようなセキュリティ屋は、かつて、新しいものに対して警鐘を鳴らし続けることが仕事だと思っていた。セキュリティを考えずに新しいものに飛びつくのは危険だと訴え続けてきた。それは今でも間違ってはいないと思う。ただ、そこに重要な視点が一つ欠落していたことに最近気がついた。ちなみに、ここで言う「セキュリティ」は、いわゆる情報セキュリティを意味する狭義の「セキュリティ」として使うことにする。

セキュリティは何のために存在するのだろうかという素朴な疑問に対する答えである。そりゃ、インシデントのリスクを下げることで、ビジネス上の損失を減らすことだろう、とそこまではまっとうなセキュリティ屋なら考える。企業におけるリスクマネジメントを考えた時、そのリスクはいくつかの種類に分類されるのだが、大きく分ければ、市場リスクや為替リスクのように、ゼロをはさんでプラス、マイナスの両方に振れる量のマイナス側を(期待に対するマイナス差分をといったほうが正確かもしれないが)をリスクと考えるものと、そもそもプラスが存在せず、マイナス側の絶対値をリスクと考える、いわゆるオペレーショナルリスクのようなものに分類できると思う。セキュリティリスクは明らかに後者の話だし、この場合、いわゆる「対策」はいかにしてリスクを減らすかということにフォーカスすべきだというのは、ある意味自明である。

一方、前者のリスクは、プラスを大きくしようと考えれば考えるほど、一般に大きくなる。いわゆる、「ハイリスク・ハイリターン」という特性を持つわけだ。目標を高くもてばリスクは増える。このバランスで考えて、ある時はリスクを多少負ってでも、利益を追求する判断もある。

こうして分類してみると、セキュリティの目的に対する先の解答は100点の解答であるように思うのだが、ここでちょっと違う視点でリスクをみてみよう。最近ERM(Enterprise Risk Management)の中でセキュリティをとらえようという動きがある。実際、これまでは、ビジネス市場のリスクはマーケティング部門が、為替、投資に関するリスクは企画部門や財務・経理部門が、環境リスクは総務部門が、そしてセキュリティについてはIT部門や専門のセキュリティ管理部門が・・・といった形で、それぞれに特化して管理が行われてきた。しかし、リスクマネジメントプロセスは近年、かなり標準化が進んでいて、とりわけISO規格化されているリスクマネジメントのスキームは、ほぼ同一である。これを別個に取り扱うことがほんとうにいいのだろうか。JSOXにからんだ一連の動きは、この疑問を拡大した。「内部統制」という広い概念に基づくリスク評価と管理が要求されたため、この対応は、既存のすべてのリスクマネジメントと必然的にからむことになるからだ。こうした点を考えずに内部統制への対応をはじめた会社は、その多くが失敗や多くの無駄な努力を経験していると思う。つまり、これらは、すべて「ビジネス」を進めていく上でのリスクとして同じ土俵の上で考えられるべきものなのだ。

言うは易し、だが、その動きは徐々にはじまっている。そうした中で、これまで自分の分野に閉じていればよかった個々のリスクマネジメントは、ビジネス課題との整合性ということをより意識する必要に迫られる。ビジネスつまり市場に直結したリスクマネジメントは、これまでも市場環境の変化や経営戦略と密接に連携してきた。しかし、いわゆるオペレーショナルリスクについては、ある意味でお荷物的な、つまり、ちょっとネガティブな扱い方をされてきたように思う。マイナスを減らすわけだが、それは確定的なマイナスではない。あくまで確率的なものだ。それをどう見積もるかによって、対策にかける意気込みやお金もかわる。経営が積極的ならば、必要なリソースが提供されるが、消極的ならば、セキュリティ屋から見て、絶対やらなければいけないことにも金やリソースが出てこない。だから、セキュリティ屋はこれまで、どう経営にリスクを説明するかに腐心してきた。しかし、それが少しゆがんだ結果をもたらしてしまう。つまり、リスクを説明するのはいいとして、それに少し誇張を加えないと理解してもらえないと考え始めたわけだ。極論してしまえな、いわば経営陣を脅して自分たちの立場を引き上げ、リソースを引き出そうとするわけだ。この作戦は、最初はかなりうまくいった。(最近では「狼少年」の例にもれずになってしまった部分もあるのだが・・・)特に、個人情報がらみでは、実際にあちこちで被害が発生していることもあって、むしろ脅しは効きすぎるくらいに効いている。その結果としておきたことといえば、いい例がノートPCの持ち出し禁止や自宅での作業の禁止といった杓子定規なルールの制定である。また、脅しは経営層だけではなく、一般の従業員に対しても行われる。万一問題が起きた時の処遇に関するプレッシャーだ。ルール違反で事故をおこした場合の懲戒は当然としても、そのルールによって、たとえば出張中に、他の顧客のサポートができない・・・・といった不便さを強要されることになる。自分の業績を最大限上げたい営業マンにとっては深刻な事態だ。自己責任でルールを破っても、業績向上をとるのか・・・というような判断を個人のレベルで迫られることになる。これはどうかんがえてもおかしい。本来、そうした判断は組織的に行われるべきだ。しかし、それを強いているセキュリティ屋さんたちにとってみれば、自分たちの業績、つまりインシデントを減らすことが至上課題なのである。そこに現場レベルでの利害対立が生じてしまう。こうなると、最終的には「政治問題」として、戦いは空中戦にもつれこんで泥沼の戦いのなる可能性が高い。そうしなければ、現場のモティベーションが下がってしまうからだ。もちろん、「政治力」のない部署は、意欲をそがれてしまうわけだが。

ここまで言えば矛盾点は明らかだと思う。いわゆるオペリスク対策は、ビジネスに対してマイナスのインパクトを与えてしまうことも多い。しかし、「脅し」がきいた経営陣はその事実を具体的な検討もなしに容認してしまう。本来、企業において、すべての組織は「ビジネスの推進、業績の向上」が最上位の目的であるはずだ。本来、オペリスクの低減は、損失を減らすことで、結果的に業績の向上に寄与するはずのものだが、それがビジネスの足を引っ張るインパクトが必要以上に大きいと本末転倒になってしまう。あくまで、ビジネス目標とのバランスで考えなければならないのだ。これが、リスクマネジメントを統合すべき大きな理由のひとつである。

米国のコンファレンスに毎年行って感じることがある。それは、セキュリティ屋さんたちの考え方の違いだ。ベンダ側に専門家が偏在している日本とは異なり、米国ではユーザ側に多くの専門家がいる。そして、彼らのモティベーションは明らかに日本とは違う。たとえば、一昨年、あるコンファレンスで基調講演をした某有名軍需産業のCISOは、セカンドライフを導入するにあたって、その問題点をすべて洗い出し、安全に「使うための」ガイドラインを作ったという。クラウドについても、リスクを評価し、「使うための」基準を考える、それが自分たちの仕事だ、と明言した。お堅いイメージの軍需産業においても、技術競争はし烈だ。ここでいう「技術競争」は、本業となる軍事技術だけではない。ビジネスの効率をあげたり、ITのコストを削減しつつ、質を向上させる技術を獲得することが、企業の命運を左右することだと彼らは考えている。だから、新しいものを先取りして検証し、それが世間で使われる頃には、ガイドラインができあがっている。そういう意味での先見性がなければできないことだ。

ある企業のCISOは、セキュリティはビジネスの「イネーブラー」つまり、そのビジネスを安全かつ迅速に進めるための推進剤でなければならないと言いきった。無難なベストプラクティスを押しつけるのではなく、自分たちのビジネス目的に沿ったプラクティスを考え出す力がないと、少なくとも企業においてはセキュリティ屋としての責任放棄とならざるをえず、もはや失格なのだ。

これから書くことは、そういう前提で書いていることを覚えておいてほしい。

(続く)

 

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このページは、風見鶏が2010年1月10日 10:08に書いた記事です。

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